引越し難民も!? 2024年問題の実際の影響を引越し会社5社&引越し利用者に調査
公開日 2024年08月01日
ここ数年話題になっている「物流の2024年問題」。2024年4月より、トラックドライバーの時間外労働に上限が適用されたことから、輸送能力が不足して「モノが運べなくなる」ことが懸念されていました。引越し業界においても、引越し会社の手配が難しくなる、引越し料金が値上げされるといった影響が考えられます。実際、4月前後の引越しにどのような影響があったのでしょうか。また、今後はどうなるのでしょうか。
引越し会社5社と、ここ3年以内に引越しをしたユーザーにアンケートと取材を実施しました。
物流の2024年問題とは
物流の2024年問題とは、2024年4月1日からトラックやバス、タクシードライバーの労働時間に上限が設けられることで起きる問題のこと。既に2019年に施行されていた働き方改革関連法ですが、ほかの業界とは働き方が異なる運送・物流業界では、5年間適用を猶予されていました。今回、運送業でも労働時間の上限が年960時間に規制され、順守しないと会社側に罰則が科せられることになります。
(写真/PIXTA)
この適用で懸念されるのは、ドライバーの労働時間が短くなることに伴い、輸送能力が足りなくなるということです。国の推計では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合、2024年には14.2%、2030年には34.1%の輸送能力が不足するとしています(国土交通省「物流の2024年問題について」より)。
昨年の新型コロナウイルスの5類移行により、人の移動は活発になってきています。しかし、引越し業界では数年前から慢性的な人手不足といわれています。加えて今回の適用でドライバーの労働時間が減少することで、モノが運べなくなる、ひいては輸送を断られる「引越し難民」が出るのでは、と危惧されているのです。
2024年問題でこんな問題が起きるかも
ドライバーの労働環境の改善が期待される一方、
引越し会社にとっては
- 1日に輸送できる荷物量や走行距離が減る
- 長距離引越しの対応が難しくなる
- 売上や利益が減少する
- 採用コストや人件費が増える
- 人手不足が深刻化する
利用者にとっては
- 引越し料金が上昇する
- 希望する日に引越しできなくなる
- 長距離引越しの日数がかかる
- 引越し会社の選択肢が減る
といった問題が懸念されます。
では、引越し会社はこの2024年問題についてどのように対策を講じているのでしょうか。
5社に協力いただいたアンケート結果を紹介していきましょう。
引越し料金値上げは5社中2社。値上げ幅は6〜20%
(写真/PIXTA)
引越し会社5社に協力いただいたアンケート結果によると、2024年4月以降、「2024年問題」に影響があると答えたのは2社。影響は特にないとした3社も、その理由として「以前から想定し、対策を行っていたため」と、急な影響が及ばないよう前もって対応を進めていたことがわかりました。
具体的な対策を見ていきましょう。
1 引越し料金の値上げを決めた会社は2社
大手引越し会社Z社 | 「繁忙期は据え置き、通常期は昨年比6%の値上げを行いました」 |
京都市を拠点に引越し業務を展開する中堅引越し会社L社 | 「3・4月の繁忙期は10%、5・6月はやや強気ではありますが、20%の値上げを実施。今後は様子を見て、引越しが集中しがちな月末は上げて、それ以外は従来どおりにするなど、メリハリをつけようと考えています」 |
ほかに、2023年に既に値上げを行った会社も。
大手引越し会社V社 | 「夏に長距離引越しにおける運賃を改定。燃料費や資材費などの価格転嫁が適正にできていると考えています」 |
一方、値上げを踏みとどまった会社もあります。
大手引越し会社X社 | 「資材や燃料などの高騰が続き苦しいですが、値上げ幅を交渉するなどして削れるところは削減し、お客様の負担にならないよう努めています」 |
2 社内体制の見直し、また業務の効率化に取り組んだのは4社
中堅引越し会社L社 | 「当社では引越しのほか一般の輸送部門も手掛けており、早朝から稼働するため拘束時間が長かった。36(サブロク)協定を結び直したことに加え、これまである程度ドライバーまかせだった出勤時間をきちんと定め、拘束時間をしっかり管理するようにしました」 |
大手引越し会社V社 | 「以前から業務効率化のためDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。また、新たな取り組みとしてモーダルシフト(鉄道輸送への転換)も進めています」 |
大手引越し会社X社 | 「1日にまわるコースは各拠点の担当者が手作業で作成するのですが、少しでも走行距離や時間を削減できるよう見直しを行いました。ダンボールの配達などともうまく抱き合わせ、より効率的にまわれるように配車ルートを設定しています」 |
大手引越し会社Z社 | 「自動配車ツールを導入し、業務を効率化しました」 |
と、各社体制を見直すなど、効率化に向けての取り組みを進めています。
36協定とは
労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に、労使間で結ぶ協定のこと。
拘束時間(休憩や仮眠時間も含めた、始業〜終業のすべての時間)は、年間で原則3300時間以内と定められています。36協定を締結することにより、1年の総拘束時間を3400時間まで延長できます。
3 従業員の給与を上げたのは2社。従来から課題だった人員不足は2024年問題が追い打ちに?
大手引越し会社X社 | 「従業員の給与を上げたものの、中・長距離引越しに関しては特に人員が不足しており、繁忙期は厳しい状況。ドライバー教育として免許取得にかかる料金の何割かを負担したりお祝い金を出したりしていますが、30〜40代のドライバーがまだ足りていません」 |
中堅引越し会社L社 | 「当社はもともと定着率が高く、ドライバーは勤続20〜30年、今は50代のスタッフが中心。今後は若いスタッフを増やさなくてはならないのが課題です。募集をかけても即戦力になる方はなかなか決まらず、未経験者を育てている状況」 |
一方で、ブランド力を活かし、安定的な人材確保に成功した会社もあります。
大手引越し会社V社 | 「平均4.3%、首都圏の現業職約8%の賃金アップや独身寮の設置など、さまざまな待遇改善施策により、離職率は改善傾向にあります。またインターンシップの活用など採用早期化に対応したことで、採用実績も堅調です」 |
引越しスケジュールやエリアに変化は?
(写真/PIXTA)
3〜4月は引越しの繁忙期。2024年問題を受けて、実際にスケジュールやエリアに影響はあったのでしょうか。また、利用者の行動に変化はあったのか、うかがってみました。
1日あたりの対応件数が減った会社は2社
対応エリアを縮小したと答えた会社はありませんでした。1日あたりの対応件数が減ったと回答したのは2社。
中堅引越し会社L社 | 「対応件数をあえて減らしたというわけではなく、単価を上げたことで成約率が落ち、結果的に件数が若干減ったといえます」 |
大手引越し会社X社 | 「3月は傭車(ようしゃ/協力会社への業務委託)を手配しましたが、4月は受け入れ体制が整わず依頼をお断りしたケースもありました」 |
3月の引越し需要が高く、4月は落ち着いた傾向
大手引越し会社Q社 | 「4月の引越し件数は例年と比べて減少しました」 |
大手引越し会社X社 | 「2024年1〜3月の売上と利用客数は昨年同時期と比べて増加しました。理由としては、コロナ禍が落ち着いて企業の転勤が増えたことが考えられます。4月の引越し件数は少し減りましたが、6月には契約している法人利用(異動に伴う引越し)がまた増えてきており、今年度の売上は5〜10%増を予想しています」 |
大手引越し会社V社 | 「3月は末日が土日だったこと、また法人需要が回復したことから、3月は受注件数・業績ともに上がりました」 |
一方で、3月に集中せず、分散傾向にあったと回答する会社も。
中堅引越し会社L社 | 「3月は引越し料金も高いため、4月にずれ込ませた人が多かった印象です。平日の引越しも増え、分散傾向が見られました。見積もりの際、どの日なら安くなるか相談されるなど、最近はお客様もネットなどで勉強していることがうかがわれました」 |
引越し料金が高くなった、予約が取れなかったという利用者の声も
(写真/PIXTA)
ここで、利用者の声も見てみましょう。
3年以内に引越しをした300人にアンケートを取ったところ、2024年問題による影響を考慮した人は10%以下。各社の事前の対策が功を奏したのかもしれません。
「影響を考慮した」と答えた人の半数近くは、3月までに引越しを終わらせるようにしたと回答しています。
2024年問題の影響として、「引越し料金の高騰を感じた」「引越し会社の予約が取れなかった」という回答が寄せられています。
以前と比べてドライバーの労働時間が減少したことにより、引越し件数の減少や料金の高騰などの影響が見られた2024年問題。引越し会社は、従業員の賃金アップをはじめとする待遇改善を図り、次の繁忙期に向けて人員を確保することが求められています。同時に今後DXへの取り組みが一層進んでいけば、配車業務の効率化やコストの削減にもつながると考えられます。
利用者も、今後引越し予約が取りにくくなることを見越して、可能であれば繁忙期を避けて引越しの予定を立てたいもの。また安さだけに目を奪われず、適正価格で満足度の高い引越しサービスを受けられるよう、比較検討して引越し会社を選ぶことが大切といえるでしょう。
<調査概要>
[引っ越しに関するアンケート]より
・調査期間:2024年6月7日(金)
・調査方法:インターネット調査
・対象:18歳~64歳、男女
・有効回答数:300
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