子連れの引っ越し、どうする? 小さな子どもへの危険や影響、メンタルケアなどのチェックと備え
公開日 2023年10月26日
人生で何度か経験する人が多いであろう引越し。子どもがいるご家庭で引越しをする場合には、子どもが危険に陥ってしまうシーンはないか、親が引越し準備のための時間をどう捻出したらよいかなどについて考えることが必要です。どんなところに注意をすればよいのでしょうか。小さなお子さんから小学生までを想定して、引越し前、引越し作業中、引越し後に分けて、子連れ引越しの注意点を解説。東京家政学院大学 現代生活学部 児童学科 准教授の丹羽さがの先生に、子どもへの影響についても伺いました。
■目次
引越し前:内見時、梱包時間や荷造りの注意点
内見で新居を決め、引越し業者を決め、引越し日を決め、梱包を始める――。一般的な引っ越し前の手順は、おそらくこのように進むのではないでしょうか。それぞれの行程におけるチェックポイントを整理しましょう。
1、内見時:新居の高低差に注意
まず、内見時にチェックしたいのは、これから住む家の中に潜む危険がないかどうか。大人にとっては危険でないように思えても、子どもにとっては危険になるスペースは意外とあるものです。
例えば、新居には以前の住まいにはなかった高低差はないでしょうか。具体的な例を挙げると、二階建て以上の一戸建てやメゾネットなどに引っ越した場合の階段やロフト。玄関の上がり框(あがりかまち)の有無などが挙げられます。
また、柵のないベランダやバルコニー、大きな開閉式の窓などにも要注意です。赤ちゃんや小さな子どもがうっかり転落し、大事故につながりかねません。子どもが開閉できない取り付け式のゲートを設置する、窓の周囲には登れるような家具を置かないなどの工夫をあらかじめ考えておくとよいでしょう。
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2、荷造り時 ①:梱包時の思わぬけがに注意しよう
引越しの具体的な作業が発生するのは、荷物の梱包から。
梱包の際は、言うまでもなくあらゆるものが出てきます。刃物、ガラス製の割れ物などだけでなく、クリスマスツリーやお雛様といった、季節行事の飾り物など、子どもがつい手に取りがちなものがたくさん。うっかり目を離した隙に落として壊した、破片でけがをしてしまった――といったことがないように、大人は目を離さないようにしましょう。
3、荷造り時 ②:大型家具は最悪、死亡事故につながる
また、荷物の梱包時は、子どもが普段、目にしたこともない物品が次々と出てきます。子どもはわくわくして、つい手に取って口に運んでしまったり、落として壊してしまったりすることも。
例えば、季節の飾り物などは子どもがつい手に取ってしまいがちです。クリスマスツリーの飾りを落として割ってしまい、足を切ってしまった、お雛様の小さな飾りを誤飲してしまった、などの事故が考えられます。
他にも、注意すべきは割れ物。ガラスや食器類など、紙で梱包しかけたものに子どもが興味を持って取り出してしまい、割ってしまうケースが多く見られます。けがのもとになるので、くれぐれもお子さんから目を離さないようにしてください。
梱包以外に注意したいのは、家具の転倒事故です。家具ごと転倒して下敷きになれば、けがだけでなく命の危険すらありえます。
消費者庁の調査では、平成 22 (2010)年 12 月1日から平成 29(2017) 年8月 31 日までに、家具等の転倒による事故情報が41 件寄せられているとのこと。さらに、約8割が6歳以下の子どもの事故だったそうです。消費者庁が厚生労働省「人口動態調査」を分析したところ、平成 22(2010) 年から平成 26(2014) 年までの5年間で、同様の事故について子どもの死亡事故が2件発生していたとのことでした。
これらの調査は引越し時に限ったものではありませんが、衣類や本などの、中身を取り除いたタンスや本棚は手や足をかけやすく、より危険度が増してしまいます。引越しまでに時間がある場合には、中身を梱包した大型家具に、転倒防止用ロープや器具などを再取り付けしておいたほうが安全です。
4、荷造り時③:親の健康にも注意
また、子どもだけでなく親の健康にも気をつけなければいけません。
基本的にはお子さんが保育園や幼稚園、小学校などに通園、通学中に落ち着いて作業をされる方が多いと思いますが、共働きのケースなどはやむを得ず週末(土・日曜)や休日になることも。休日返上で梱包をする場合や、お子さんが小さく、夜泣きや日中もまだ目を離せない赤ちゃんであれば、一時保育を検討するなどして親が体を壊してしまわないように注意しましょう。
民間のベビーシッターサービスだけでなく、最近は、自治体が提供する一時保育もあります。生後3カ月ごろから、理由を問わず時間単位で預かってくれるところもあります。預かり先は、公立・私立の保育園や支援センターなどが一般的です。預かり可能な年齢や条件については、お住まいの自治体に確認してみて下さい。
もし予算に余裕がある場合には、梱包から請け負ってくれる引越し会社に依頼をすることも有効です。最近は、荷造りだけ、荷ほどきだけそれぞれ個別の料金で対応してくれる業者もありますので、見積もりをとってみるとよいでしょう。
引越し当日:運び出し時の注意点
1、熱中症防止のための準備
梱包が終わったら、いよいよ引っ越し当日。運び出しが始まると思いますが、長年動かしていなかった家具や家電を動かすと、ほこりやゴミなどが舞い上がるもの。鼻水や咳などの症状が出ないように、大人も子どももマスクの準備をしておき、着用しましょう。もし可能であれば、子どもはなるべく他の場所で待たせたほうがよいかもしれません。
また、転勤などに向けた9月ごろの引っ越しは、熱中症に注意しましょう。残暑が厳しい昨今では、9月、10月になっても30度前後の真夏日は珍しくありません。
冷蔵庫は前日から電源を切っておくケースが多いため、冷たい飲み物を保管しておく場所がないことも。コンビニなどで飲み物や氷を調達しておき、くれぐれも熱中症にならないように。子どもは預ける、もしくは涼しい自家用車の中に大人と一緒に避難させる、などの工夫も有効です。
2、トラックによる事故
運び出しから積み込みの最中には、引っ越しトラックにも注意する必要があります。荷物や家具を運び込んでいる間、基本的に荷台部分は開いたままになっています。子どもがもぐりこんで出られなくなる、といった事故が起きないように注意しましょう。
積み込みが終わった後も、新居に向かって移動している引っ越しトラックに巻き込まれたりしないように、子どもから目を離さないことが大切です。
引越し後:荷ほどき後、新環境での注意点
1、荷ほどき後は安全確保を
いよいよ新居に到着したら、荷ほどきが始まります。乳幼児がいる場合は、優先的に家具の角をガードする、床にクッションパッドを敷く、サークルで移動範囲を囲って親の目の届く範囲で子どもが遊べるようにする、などの工夫をしましょう。
引っ越し前の自宅にはなかった家具や家電を購入していたり、引っ越しで一時的にコーナーガードを外していたりすることもあります。また、マンションから一戸建てに引っ越した場合などは、階段などこれまでになかった危険エリアが増えることも。まだ親も慣れていないため、子どもがついコーナーガードを外した角に頭をぶつけたり、階段から落ちたりしてけがをすることがないようにまず安全を確保することが大切です。
以下の確認ポイントを忘れないようにして下さい。
- 割れ物や刃物などは早めに荷ほどきをして子どもの手の届かないところに移す
- 大型家具や家電に転倒防止策を施す。衝撃吸収マットを敷く、転倒防止ロープを取り付けるなど
- 家具の角などにコーナーガードを取り付ける
- 階段やキッチン、玄関など子どもが1人で立ち入らないほうが良いエリアにはゲートを取り付ける
- ベランダや大型窓などをチェックし、転落防止策を施す
2、新しい環境での状況確認を
注意していても、子どもが急に発熱したり、けがをしてしまったりすることも考えられます。近隣の病院、特に夜間や休日診療がある病院の目星もつけておくとよいでしょう。
親も疲れているはずですが、子どもが体調を崩してしまうとさらに心配事が増えてしまいます。まず、家族全員がゆっくり休めるように、ベッドや食事ができる環境を優先して整えていきましょう。
3、メンタルケアにも目を向けて悲劇を防ぐ
最後に、引っ越し後に意外と見落とされがちなのが、子どものメンタルケアです。赤ちゃんであれば夜泣きにつながったり、人間関係が完成してきた小学生以降の子どもであれば、引っ越しで仲の良い友達と離れることが心の傷になったりすることもあります。
実際、小学生男児が引っ越し後、「引っ越したくなかった、元の家に帰りたい」といってわずかなお金を握りしめて線路上を歩いていて列車にはねられ亡くなったという事故も過去にありました。
引っ越しは子どもたちの心にどんな影響を与える可能性があるのでしょうか。また、親はどのようにケアしたらよいのでしょうか。東京家政学院大学 現代生活学部 児童学科 准教授の丹羽さがの先生は、子どもの年齢に応じてさまざまな影響が考えられると指摘します。
乳児の場合
「個人差もありますが、生後3、4カ月ごろから、夜にまとめて寝て昼間は起きている時間が長くなるなど、生活のリズムができ始めます。このリズムを整えるためには、親が生活リズムを整える必要があります。引っ越し後に親の生活リズムが乱れてしまうと、赤ちゃんのリズムも崩れてしまい夜泣きの原因になりかねません。
対策としては、親の生活リズムが乱れないようにすると共に、引っ越し後は赤ちゃんを寝かせる場所を早急に整えるようにしましょう。気温や風通し、騒音の有無などをチェックして、赤ちゃんが過ごしやすい環境を意識するとよいでしょう」
幼児の場合
「幼稚園に通い始めると、子どもは社会的な変化も感じるようになります。通いなれた場所が変化し、ストレスが大きくても、自宅が落ち着いていれば家に帰ってほっとできるはず。早めに自宅の住環境を整えてあげるとよいでしょう。
幼児は、自分の感情をうまく言葉にできないことがあります。口では表現できないけれども、感じているのかもしれないことを言葉にして話しかけてあげると安心します。例えば、『前のおうちのそばの公園に、お休みの日に遊びに行ってみようか?』などですね。機会をつくるつもりがあるよ、ということを伝えていけるとよいですね。新しい環境に慣れれば、自然と新しいお友達も増えて落ち着いていくのではないでしょうか」
小学生の場合
「小学生になると、基本的には自分の意思を言葉で言えるようになります。しかし、うまく言える子と言えない子がいるので、親御さんは気持ちを聞いてあげて、寄り添ってあげられるとよいですね。ついつい『もう大きいんだから我慢しなさい』とか『引っ越したんだから仕方ないでしょ』などと言ってしまいがちですが、これではお子さんは気持ちの持っていきどころがなくなってしまいます。友達関係は子どもが新しく構築するとして、家に帰れば親が話を聞いてくれる、安心できる、という構図になっているとよいのではないでしょうか」
まとめ
子どもがいる家庭の引っ越しは、ただでさえ気をもむことが多いもの。しかし、親が思っている以上に子どもの身体的にも心理的にも負荷が高いようです。
家具の転倒防止や高所からの転落防止など、物理的な環境を早めに整えると同時に、親がお子さんの不安に寄り添ってあげるようにすると、お子さんも早く新居や新しい環境になじむことができそうですね。
●取材協力
東京家政学院大学 現代生活学部 児童学科 准教授
丹羽さがの先生
発達心理学が専門。児童の乳幼児期の心理的発達と合わせて、保護者の子育て期・中年期の心理的特徴についても重視し、子育てのパートナーとして保護者を支援できる保育者の育成に取り組む。
写真: PIXTA
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